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街の広場にあった“ステージ”では、今日のところはスタッフのみによる模範バトルがご披露されているらしく。午前中のうちに到着していた早乗り組だろう、招待客(ゲスト)のコスプレイヤーたちも何人か、その周辺へと集まっていたものの。どんなに入れ込んでいての堂に入った変身(なりきり)っぷりをしていても、ちょっとした所作や態度が微妙に異なるので、どこかに提げてるIDカードの有無を探さずとも、何とはなく見分けはつく。
「照れが出るか、逆になりきってる自分に酔ってるか。」
「そゆこと。」
自分が選んだキャラクターへの思い入れが深すぎるあまりに、芝居がかった匂いがついつい出過ぎてしまい、そんな人物が実在しはしなかろうというほどもの個性の強さ、いわゆる“アク”が鼻につく。今日ここに集まっているのは、それも有りかもね…という理解というか許容というかがある人間ばかりなので、それが揶揄されたり小馬鹿にされたりといったことが原因での、諍いや小競り合いなどは…
「起きにくいとは言い切れません。」
おおっと。
「むしろ、それぞれなりの主張も強かろう方々が多数いらして、しかもそういう主張を許されてもいいはずの場と思っておいででしょうから。緩い言い方で“羽目を外して”の、悪い言い方で“度を超して”の騒ぎが起こらないとも限りません。」
ある意味 事実ではあろうけど、言葉や発言という形にするのはちと恐ろしいことを、だのにきっぱりと言い切ったのは…りぼんちゃんで。正直なところには違いなかろうが、選りにも選ってスタッフサイドのお人がそれを口にするとは意外や意外。丁度、何とか学園の制服姿なもんだから、生徒会長か風紀委員の主張のようにも聞こえたほどで。とはいえ、さすがに大きな声では言いにくいことではあるものか、ご案内中のルフィらにだけ聞こえる範囲というトーンでの“ご説明”であり、
「一応は、業界としてのチェックというのでしょうかマークというのでしょうか、
そういった方面へ明るい方々の助言をいただいての資料というものを参考に、
愛や好きが嵩じての問題行動を起こしそうな“過激な方々”は、
書類選考の段階での“審査”で弾かせていただいております。」
失礼ながら、イベントの安全な成功を鑑みての配慮として、そういう“審査(ふるい)”をまずは掛けてあるとの裏事情をこそりと漏らしてのそれから、
「それと。なりきりという点への割り切りとでも申しましょうか。
照れが出てしまおう方には“え~い”という踏ん切りをつけやすくするために。
はたまた、陶酔型の方には冷や水ぶっかけることにもなろう効果として。
そのキャラとしての行動に出ていただくに当たっては、
名乗りあげをしていただくことになっておりますvv」
「名乗りあげ?」
キョトンとする一同の視線を、ぴしりと真っ直ぐ立てた人差し指の指先に集めたりぼんちゃんが、それをそのまま“ほれ♪”と振った先。
「我はミッドガルドのガーディアン、オニキサスなり。」
ゆったりめの半袖シャツに同じ素材の短パンとレギンスを重ね着たようなシンプルな恰好の上へ、鋲を打った胴着だの胸当てだのという革の装備で防御を固め、腰には黒革の鞘に収めた…恐らくはサーベルを提げた戦士が一人。結構広々としたステージの上へ、袖に当たるのだろう舞台の脇のほうから、そんな口上を高らかに唱えつつ進み出て来た。
「ああやって役柄を宣言しない限り、
格闘系であろうが娯楽系であろうが、イベントには参加できないというのが、
今回の催し上での大原則ルールなんですよ。」
「な~るほどねぇ。」
「何だか芝居がかってしまうけど、だからこそのセーフティにもなるってワケか。」
参加者たちの対象年齢がどちらかと言えば高い方なイベントでありながら、なのに…いかにもお子様向けの着ぐるみショーのような、わざとらしいこの演出、この対処となっているのはどうしてか。あくまでもお芝居ですよお遊びですよということをはっきりくっきり明らかにすることにより、こういうことへの慣れがない人へは“遊びだ”と割り切って入り込みやすくなるからで。逆に、陶酔型の方には冷や水ぶっかけることにもなろう効果になる…というのは、
「クールな二枚目を気取りたいクチなんかには、
ちょっとばかりキャラクターの枠から外れる行為に成りかねないもんな。」
真の英雄が、真の天才が、自分で自分を“英雄”だの“天才”だのと自画自賛はしないように、二枚目は自分で自分を“イケメン”だの“二枚目”だのと言ったりはしない。わざわざ言うようなお人は、周囲からは言ってもらえないから、あれぇ? 気づいてないの?と焦って自己主張しちゃっているのであり。ということは……………推して知るべし。
「あと、空気が読めなさ過ぎる方や、暴れん坊キャラだからと、
傍若無人の限りを尽くしても間違っちゃあいないなどと嘯(うそぶ)く方などへは、
それなりの対処も取らせていただくことになっておりまして。」
バスガイトさんのジャケットにも似た、やたらとタックの多い上着の懐ろからりぼんちゃんが取り出したのは、表紙の真ん中に雪の結晶みたいなメダルが張り付けられた、合皮製の黒い手帳。
「スタッフの一部はこれを所持しておりますし、スタッフ専用のカードを使うことで、本部の機動部隊を召喚出来ます。」
やはりゲームの中に出て来る犯罪結社の団員のコスプレ、黒づくめの仮装をした体育会系の雄々しき一団が駆けつけますので。問題行動を起こしたゲスト様は、誠に申し訳ありませんが、有無をも言わさずの退場とさせていただくシステムが、
「参加規約の、此処、187条に記載されておりますので、話が違うと言われても受け付けられません、悪しからず。」
「うわ~、字が小さいぞ。」
「何か、怪しい会社の損害保険の約款みたいだな。」
「…お前、やっぱどっかで色々とバイトしてねぇか?」
おいおい、あんたら、いい加減にしときなさいってば。(苦笑)
「えとえと、こんなところでしょうかしら。」
一通りのことは説明し終えたと思うのですがと、かっくりこと小首を傾げて見せたりぼんちゃんへ、
「おうっ、面白いことがいっぱいだってのよっく判ったvv」
何とも簡潔に言ってのけたのがルフィなら、
「あなたが愛らしいばかりじゃあなく、博識でもあるってことも、よっく判りましたvv」
こらこらサンジさん。(笑) そして、
「晩飯には間があるんだろ? あれに混ざりに来たんじゃなかったんか? ルフィ。」
早くも新たな一幕が始まったらしいステージを指差したのがゾロと来て。……ホンマにシステムじゃ何だがちゃんと判ったんでしょうか、この人たちってば。(う~ん)
“まあ、今回はテストケースですしねぇ。”
それを言ったら何にも憂慮出来ないじゃんか、りぼんちゃんたら。(う~んう~ん) 目一杯楽しみに来たんだもんねというのはありありしている、底抜けに明るくて気さくなばかりのご一行様なので。まま、問題ゲストにはなりそにないかと、その方向にだけは安堵して。わぁいともっと近くで観ようぜとばかり、ステージへ向かって急ぎ足する坊やを追って、残りの面々がたかたかと足を速めて、さて。
【対決モードのデュエリストはいませんか?
…でしたら、まずはモンスターのアカウント。
地の属性から、グラウンドキメラを選択。】
オニキサスと名乗りを上げた戦士さんの背後、壁かと思っていたら巨大な液晶画面だったらしくって。そこへンパッと映し出されたのが、洞窟のような岩場を背景に宙に浮かんだ…、
「タツノオトシゴか?」
「ははvv 似てるな、そういや。」
即妙なギャグだと流したか、楽しそうに笑ったルフィはともかく。すぐ前に立っていたフードつきのマントにファンシーなメイド風ワンピース姿の女子高生が“はあ?”というお顔で振り向いて来たのは、グラウンドキメラとか言うのは、このゲームの中ではかなりメジャーな初級モンスターだったから。それを、だってのに知らないの?と呆れたのだろう。とはいえ、
「…っ。////////」
何? こいつ、ダサっとか言ってやりたかったらしい険のあったお顔が、あっと言う間に ほわんと緩んで。夢見るようなとタイトルつけていいような、色っぽい眼差しと薄く開いた口元に早変わり。
“美人にはなったけど、ゾロを見てってのは癪だよな。”
サマルの衣装を着ていることへの違和感よりも、ご本人の男ぶりが勝ってしまってのこの結果。彼女だけじゃあなく、他の…例えば、肌色のインナーを着てでもいてのぎりぎりセーフだったか、ベリーダンスの踊り子、ローライズレベルの腹出しという過激な衣装を着たお姉さんが少し離れたところから、ずっとじっとゾロをばかり見つめているし。ちょっぴり口惜しそうなお顔の女の子二人がしきりと何か囁き合っているのは、サマルはないでしょサマルはと、激しく残念がっているからに違いなく。
“…どんな可愛い子が相手でも、俺んなんだからな。//////////”
譲ってなんかやんないもんねと、こっそり…背中の端っこをきゅうと掴んでの自己主張をしたところ。
【やったーっ! やりましたっ!
オニキサス、5ポイント獲得、コイン1枚ゲットですvv】
剣に取りつけたセンサーの動きが画面へ連動する仕掛けらしく、ひょひょいとコミカルに避けもしたタツノオトシゴもどきのモンスターくんは、3ターン目でキュワワンという電子音と共に掻き消えて、進行係のMC、頭にウサ耳をつけたお姉さんが“さあどうぞ”と女性のコンパクトくらいはありそうな、大きいコインを差し出した。要はゲームセンターの体感ゲームのようなもの。各所に幾つかあるダンジョンにも同じようなスクリーンや液晶画面のシステムが設置されておりますとの説明へ、だったらお子様でも参加出来るんだねと開放型の客席が沸いたところへ、
【さてさて、どなたかデュエルに参加してくださる勇者はいませんか?】
どんな風に行うものかという説明もかねての実演を、朝からずっと時間別に披露していたステージだったらしくって。スタッフがやって見せてあげるだけだと、ひょんなアクシデントが起き得るというパターンに気づけないかもしれないので。出来ればゲストさんでの実演も何戦か試してみたいスタッフたちであるらしく、とはいうものの、これがなかなか出て来てもらえずにいるらしい。何せ相手としてステージに居並んでいるのは、どのお兄さんもなかなかに屈強な体躯をした、アクションクラブ所属ですという看板が見えそうな顔触ればかり。手加減くらいはしてくれもするだろうけれど、それはそれで…やっぱり恥ずかしいかもで。
【今日のエキシビジョンで得たカウントは、
明日からの本番の2倍とさせていただきますが、それではどうですか?】
特別処置まで繰り出したが、やっぱりなかなか名乗り出るお人は居な…かったものが。
「………え?」
ルフィがきゅうと掴んでた手へ、ちらと肩越し、眸をやったゾロであり。その手へは届かないからと、腕へ手を添え、にんまり笑う。
「サマルとやらはピングの兄貴分なんだろ?」
「あ、えと。そうだけど…。」
え? あれ? 俺が掴んでたの、誤解した? 頼もしいとこ見せてって言いたがってたって誤解した? あわわと慌てた拍子、ルフィの手が外れたのをGOとでも解釈したものか、
「お~い、俺、出てもいいぞ~。」
【おおっと! これはなかなか二枚目のサマルさんが登場です!
ブルームハルトの世を忍ぶ変装でしょうか?!】
“ぞ、ぞろぉ~~~?”
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*夏にならんと書く気が起きないってワケでもないのですけれど。
もはやどんな言い訳も通じない更新となっておりますお話ですいません。
いやぁ、色々のしわ寄せがここへ来ようとは思いませなんだ…。
*それはともかく。
こういうネタは、論をぶち始めるとどこまでも脱線してっちゃいますので、
説明が足りないという部分も多々あるやもしれませぬが、
そろそろ本題に入りたく、
ここからはそういう補足へは極力触れずに進みます。
(つか、もっと早くからそうしてなきゃいかんかったのですが つい…。) |